藤原啓治 : 役
エピソード 26
死の河を越えて
河は静かに流れゆき、恐ろしき性(さが)を押し隠す
しかして一度(ひとたび)牙剥けば全てを飲み込み食い尽くす
世界を分(わ)かつ水の境界線
人それをケス河と呼ぶ
砦から決死の脱出をしたグイン達は一足先に逃げていたイシュトヴァーンの提案でモンゴール領を離れるべく河を下ることを決意。しかしその河は「死の河ケス」と呼ばれていた。またその様子をモンゴール大公の娘、右府将軍アムネリスは見逃さなかった。イシュトヴァーンは自分の運を開く「光の公女」を探していたが、それはリンダではと感じる。しかし或る夜リンダに突如何かが憑依し彼に不気味な予言をするのだった。
もっと読むノスフェラスの戦い
地を埋め尽くす猛き蠍の兵士達
圧倒的な戦力差は勝敗の行方を容易に決定づけるはずであった
しかし彼等は知る。ここは魔の土地、ノーマンズランドなのだと。
ノスフェラスの砂漠地帯を河のように移動するのは一万五千のモンゴール軍。対する五百のセム族は地の利を活かしながら決死の奇襲を仕掛けるが圧倒的な戦力差はいかんともし難かった。しかしグインの予想もしない作戦で戦況は一変した。誘き寄せられたモンゴール軍はノスフェラスの謎の生き物「イド」により壊滅的な大打撃を受け、グインとセム族は奇跡的な勝利をつかむ。グインの名がノスフェラスに轟いた瞬間であった。
もっと読む狼王との出会い
呪われた土地ゆえか、己(おのれ)の宿命ゆえか。
未(いま)だ見えぬ夢の終わりはどこにある
覚めぬ悪夢の只中で孤高の王は歩き続ける。
己(おの)が運命の導く先へと…
グインの思いもよらぬ作戦により戦局を転換させたセム族であったが、モンゴール軍をノスフェラスから撤退させることはできず、敵も次の好機を窺っていた。グインは圧倒的な戦力差の先に待つものを感じ、セム達に問いかける。「俺を信じて四日だけ持ちこたえてみせるか?」。グインはセム族と同じノスフェラスの民でありその住処の知れない「幻の巨人族」ラゴンを捜し出し、彼らに味方になってもらうよう頼みに行くと告白する。
もっと読む戦士たち
策謀渦巻く世界の中で人の想いはそれぞれに
ベールで隠した面(おもて)の内(なか)で戦に備えて牙を研ぐ
求むるものの代償に、頬を流れし一滴(ひとしずく)
ノスフェラス制圧からの撤退を余儀なくされたモンゴール大公ヴラドは、娘のアムネリスに対し「パロへ嫁げ」と命じる。それは占領中のパロを完全に治めるための政略結婚であった。アムネリスはその相手がクリスタル公アルド・ナリスであることをまだ知らない。一方ラゴンとセムを統べる「ノスフェラスの王」となるよう懇願されるグインだったが、リンダとレムスをアルゴスまで送り届ける決意を語る。物語は陰謀渦巻く新章へ。
もっと読む胎動
光の子らが舞い踊り、眩(まばゆ)き生命(いのち)が溢(あふ)れだす
奏でる音色(ねいろ)に調べを乗せて、無垢(むく)なる魂の枷(かせ)を解く
その唄(うた)は赤く染まる空にとけて…。
島の洞窟でグイン達が遭遇したものは、内部に様々な色の光をたたえる巨大な塊のような物体であった。初めて出会った謎の存在にリンダは何故か懐かしさと崇高さを感じ、グインにも以前似たものを見た記憶が甦る。一方アムネリスがナリスと本気の恋に落ちたことを知った大公ヴラドはモンゴールの支配を危ぶみナリスを婚儀の後殺害することを計画、またアムネリスの弟ミアイルをケイロニアの皇女シルヴィアと婚約させようと画策する。
もっと読むさらば愛しきひとよ(前編)
彼(か)の寵愛(ちょうあい)を受けし者、
彼(か)の導きを求めし者、彼(か)の威光(いこう)におぼれし者
それは全ての愛と美を司(つかさど)る女神にして
あまねく喜びと憎しみを見守る者なり。
モンゴール公子ミアイルは吟遊詩人マリウスの歌に自らの孤独を癒され、彼を実の兄のように慕い始めていた。またマリウスも彼に幼き自分の姿を見る。二人には敵国の間を超えた心の絆が生まれていた。しかしアルド・ナリスはマリウスにモンゴールの世継ぎミアイルを殺害せよ伝令する。マリウスはパロへの忠誠とミアイルとの友情の間で揺れ動く。そしてもう一人。殺害計画に取り込まれていく男、ナリスを狙うアストリアスであった。
もっと読むさらば愛しきひとよ(後編)
うたかたの夢は露と消えゆき
断ち切る想いに心が揺れる
鈍く光りし刃の先は過去を映して虚ろに光る
響き渡る旋律を悲しみの色に染めて…。
パロ、クリスタル公アルド・ナリスとモンゴール公女アムネリスの婚礼の日、それは運命の一日となる。アストリアスは婚礼の間の影でアムネリスとナリスを待ち受けていた。「今だ、行け」ヴァレリウスの声で婚礼に突入したアストリアスの剣はナリスを狙う。愛するナリスとの結婚という幸せの絶頂に飛び込んできた凶刃。婚礼はアムネリスの絶叫で幕を閉じた。そしてその直後、アムネリスの前にもう一つの報が届けられるのであった。
もっと読むクリスタルの反乱
内に潜(ひそ)めた激情が溢れ
糸に繰(く)られた人形が狂乱の中で倒れふす
掲(かか)げる剣(つるぎ)に想いを込めて
今、反撃の狼煙(のろし)が上がる
クリスタルの南ではパロの学生達が祖国をモンゴールから奪還するため蜂起。二万人の市民と共にアルカンドロス広場に集結した。しかしモンゴール黒騎士隊精鋭により次々と鎮圧される。その時、学生の一人ランが見たものは、日を受けて銀色にきらきらと輝く甲冑、兜を纏ったパロ聖騎士の騎馬隊千五百が颯爽と駆けて来る姿であった。そしてついに聖騎士のリーダーが兜を取る。静まる一同、中には涙を流す者も。その男の名は。
もっと読む如何なる星の下に
数奇(すうき)なる運命(うんめい)の導く先に、全てを見通す一つ星
たとえ歩みし道が違えども、心は常に共にある
光り瞬(またた)くこの空の下(した)…
三万のパロ軍勢はクリスタル奪還後、モンゴールを陥落させるべく、トーラスを目指していた。そんなある夜、イシュトヴァーンは尊敬するアルド・ナリスがリンダを妻にすると決めていることを知り衝撃を受ける。そして今の自分が何をとってもナリスに太刀打ちできないことを知る彼は一人誓う。自分が愛するリンダを手にいれる方法はただ一つ、他国の王としてパロを征服し、ナリスの王妃だとしても力づくで奪うことだと。
もっと読む宿命との戦い
剣(つるぎ)と剣(つるぎ)が火花を散らし、己(おのれ)を賭けた舞踏を刻む
栄華(えいが)の時代は遠く過ぎ去り、伝承として継がれゆく
悠久(ゆうきゅう)の時の流れが語りしは…
満天の星空の下、一人草原に寝転ぶイシュトヴァーンは王になるため何が必要か気付く。スカールはアルゴスへ戻ると1万8千の騎馬の民と共に去ったが、ナリスは彼が目指すのは謎に満ちた土地、ノスフェラスではと直感する。一方モンゴールを裏切ったクムではタリオ大公が捕虜アムネリスに「クムの傀儡となれ」と迫る。そしてアムネリスは、第二王子、タル・サンと第三王子タリクの視線が自分に注がれているのを感じていた。
もっと読む旅立ち
かくて物語(ものがたり)は紡(つむ)がれる
永(なが)き時の舞台を巡(めぐ)り、神々の意思を織(お)り込(こ)みながら
忘れえぬ激動の記憶
そう、これは始まりの物語(サーガ)
クリスタルは新王となるレムスの帰還を出迎えるパロ国民で溢れ返っていた。しかし多くの歓声はナリスやリンダに向けられ、孤独の色を強めるレムス。その歓声の影でグインは一人その場を静かに立ち去る。そしてパロに新しい歴史を刻む戴冠式の日が来た。その日、一人荒野を北に向うグインの前にイシュトヴァ-ンが現われる。ヤーンはいかなる運命の物語をそれぞれに紡ぐのか。感動の最終話。
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